恋愛と結婚は別かもしれませんが

 大学生の時に、両親よりも年上の人とおつきあいをしていました。当時、私はアルバイトで美術のモデルをしていました。おもに大学や、カルチャースクールの絵画教室に派遣されるのですが、画家が個人的にモデルを使うこともめずらしくありません。彼とは、画家とモデルとして知り合いました。いつごろから、男女の関係になったのか、もう覚えていません。私は人生のうちで、「恋愛」をしたのはあのとき、あの人だけです。ただ、そういう関係になった人はほかにもいるのですが、私にとって、あの体験こそが、最初で最後の恋愛でした。しかし、彼は私のことは少しも好きではありませんでした。もちろん、嫌いではなかったのでしょう。けれど、LOVEではなかったのです。
 彼は既婚者でしたが、私と奥様のほかにも、彼女がいました。中でも、一番長い人は十年ほどの仲だったようです。彼女もモデルでした。しかし、また別にいるのです。ただ、その人は、すでに、こ私が彼と知り合ったときは、この世の人ではありませんでした。
 その女性を描いたとおもわれる油絵や、パステル画を数点、彼の作業場で見たことはあります。どれも、長い髪と、細い首、なで肩が印象的です。そういえば、私も、現在の本命の彼女も痩せています。絵のモデルは、ファッションモデルとちがい、本来は豊満な体つきが重宝される世界ですから。今、おもうと、きっと彼が事務所に「骨や筋がはっきりみえるモデルを派遣してほしい」とでも注文をつけたのだとおもいます。それは別にかまわないのですが。作品になった私は、私ではありませんでした。ポーズも、骨格も確かにそのとおりです。けれども、顔だけいつも、その幻の女性にすりかわっていました。
 そして、「好きな人ができたら、いつでも別れるから」とか「結婚がきまれば、すぐに出て行ってもいいよ」といわれていました。 私は、彼を奥様と別れさせてまで結婚するつもりはありません。だけど、恋愛をしている限り、もう少し愛されたかったのです。

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